高血圧症

高齢社会の到来と共に増加の一途をたどり問題視されているのが高血圧症です。 一般に、血圧は「加齢」とともに高くなります。老化などで血管が弾力を失い、沈着物によって血管壁が細くなると、 血流が悪化して血管にかかる圧力が高まり、血圧が上昇してきます。そこへ、「遺伝的要因」や「肥満」、 さらに「塩分の摂りすぎ、運動不足、ストレス、喫煙、過度の飲酒」などの「生活習慣」が加わると、高血圧症になるのです。

私たちの体内では、ポンプの役割を担う心臓が収縮するたびに、「動脈」と呼ばれる血管を通して新鮮な血液が全身へと送り出されています。 そうして血液を送り出した後、今度は心臓が拡張し、静脈を介して全身から血液が心臓へと集まるのです。 血圧というのはこのようにして心臓から送り出された血液が血管壁に与える圧力のことを指します。 そして、高血圧症とは、この圧力が正常範囲よりも高い状態のことをいうわけです。
高血圧症になっても、通常すぐには自覚症状がない場合が多いですが、 長期間血圧が高い状態が続くと、血管に負担がかかり、各組織でトラブルを引き起こします。 心臓は過重労働に対応するために心筋を増やして心肥大になり、血管、特に動脈の壁は厚くなってきます。 同時に動脈の内壁に血液成分やコレステロールが多く入り込んで、 いわゆる動脈硬化が進行します。 この動脈硬化は全身に起こって血液の流れを悪くしますが、特に多くの血液を必要とする心臓と脳、それに腎臓に深刻な病気を引き起こします。


■血圧とは?

血圧とは心臓から出た血液が血管に及ぼす力

心臓は、収縮と拡張を繰り返して血液を全身に送っています。 血液は、身体の隅々まで張り巡らされた血管を通って酸素や栄養素を運搬し、不要になった老廃物と炭酸ガスを運び去ります。 血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈を通るときに血管の内壁を押す圧力のことで、 主に水銀圧計で測定し、単位はmmHgで現わされます。
血圧は、主に「心臓が1回の収縮で送り出す血液の量(心拍出量)の増加」と 「末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)」によって決定されます。 心拍出量が多くなるほど血管壁にかかる圧力が強くなります。 また、末梢血管抵抗が増加すると、心臓は体の隅々まで血液を行き渡らせようとして、より強い圧力で血液を送り出します。 こうした要因によって、血圧が上がっていきます。 血圧は上の血圧と下の血圧で表示されます。 一般に血圧が高い、低いというときの「血圧」は、末梢動脈の血圧です。 心臓(心室)の収縮によって血液が全身に送り出されたとき、血管壁にかかる圧力は最も強くなり、血管が広げられます。 このときの血圧が「収縮期血圧(最高血圧)」です。 血液が勢いよく出ていくので血液は最も高くなります。 このとき、大動脈は拡張し、心臓から出た血液の45%が大動脈内に残ります。 一方、心臓(心室)が拡張すると、指先の「末梢血管」などの全身を巡ってきた血液は再び心臓まで戻ります。 このとき、血管にかかる圧力は最も弱くなります。このときの血圧が「拡張期血圧(最低血圧)」です。 年齢を重ねて血管が硬くなると、大動脈の収縮と拡張が弱まるため、収取期血圧は上がりやすく、拡張期血圧は下がりやすくなります。 心臓から血液が出ることはありませんが、大動脈が収縮して大動脈内の血液を緩やかに全身に送り出します。 そのため、血圧は最も低くなります。

血圧は上の血圧が135mmHg以上、或いは下の血圧が85mmHg以上のどちらか一方が当てはまると高血圧と診断されます。 ただし、この値は医療機関で測った「診察室血圧」の場合です。 家庭で測った血圧のことを「家庭血圧」といいますが、一般に家庭血圧は低めに出ます。 そのため、診察室血圧から5mmHgを引いて、上の血圧が130mmHg以上、 もしくは下の血圧が80mmHg以上のどちらかに該当すれば、高血圧となります。 血圧は、日々変動するだけに、こまめに測定することが肝心です。 最大血圧・最小血圧と、血圧の値が2つあるので、どちらか一方が高くても、片方が正常値だと、まだ大丈夫と安心しがちですが、決してそうではありません。 どちらか一方が正常な値より高い場合でも、合併症の危険が大きくなると考えられています。 下の血圧が低いからと油断せずに、上の血圧の変化を見逃さないことが大切です。


●血圧上昇の原因

血圧はなぜ正常範囲を超えて高くなるのでしょうか。その直接的な原因は2つあります。 1つは、前記のように「心拍出量(心臓から送り出される血液の量)の増加」と「抹消血管の抵抗」です。 このいずれにも加齢が深く関わっています。人間は誰でも年とともに、血管が老化して弾力が失われてきます。 この血管の老化を「動脈硬化」といいます。 動脈硬化によって血管が硬くなると、血液が流れにくくなって抹消血管の抵抗が増大します。 すると、今度はその抵抗に負けないように、血液を送り出す心臓の力も強くなります。 その結果、血管が血液によって強く圧迫されるようになり、血圧が上昇するというわけです。 注意したいのは、そうして動脈硬化が進むと、今度はそれが高血圧症の悪化につながることです。 つまり、高血圧症と動脈硬化は互いに悪循環を招く関係にあるわけです。

また、血圧はその時々の状態によっても変化します。例えば、ストレスを受けると血圧がよく上がるといわれますが、 それは意志とは関係なく働く「自律神経」と呼ばれる神経によるものです。 ストレスを受けると、自律神経のうち「交感神経」(心身を活発にする神経)が強く働いて全身が緊張状態に入り、 副腎から「カテコールアミン」と総称されるホルモンが分泌されます。すると、心臓の収縮力が強まると同時に、 抹消血管も収縮し、血液が流れにくくなる結果、血圧が上昇するのです。 さらに、交感神経が強力に働くと、腎臓でも「レニン」と呼ばれるたんぱく質分解酵素が大量に分泌され、 「アンジオテンシンⅡ」というホルモンの産生が促されます。このホルモンには、抹消血管を収縮させる作用と、 腎臓に働きかけてナトリウムの排出を抑え血液中にため込む作用があります。 こうして血液中のナトリウム濃度が上がると、その濃度を低く抑えるために血管の外から水分が血管内に引き込まれて 血液量が増える結果、血圧が上昇するのです。

このように高血圧症は、さまざまな要因が複雑に絡み合って引き起こされるわけです。


■高血圧の影響

高血圧症になっても、通常すぐには自覚症状がない場合が多いのですが、 血圧が高くなると、心臓と血管に負荷がかかるため、血液を送り出す心臓は正常時より大きなエネルギーが必要になり疲れやすくなります。、 また、動脈内側は血流の刺激が強まり傷つきやすくなります。 そして、長期間高血圧状態が続くと、心臓は過重労働に対応するために心筋を増やして心肥大になり、血管、特に動脈の壁は厚くなってきます。 同時に動脈の内壁に血液成分やコレステロールが多く入り込んで、 いわゆる「動脈硬化」が進行します。 この動脈硬化は全身に起こって血液の流れを悪くしますが、特に多くの血液を必要とする心臓と脳、それに腎臓に深刻な病気を引き起こします。

高血圧が長く続いて心臓の筋肉に酸素や栄養素を送っている冠動脈に動脈硬化が生じると、血管内に血の固まり(血栓)ができ、詰まりやすくなります。 心筋への血液供給が一時的に不足すると 「狭心症」になり、 完全に途絶えると「心筋梗塞」を引き起こします。 一方、脳の細動脈が動脈硬化で弱くなって血流の圧力に耐え切れなくなると、血管が破裂して 「脳出血」になります。 また、脳の太い血管に動脈硬化が起こって血の固まり(血栓)ができ、その先の細胞が壊死すると 「脳梗塞」になります。 さらに、高血圧は腎臓へも悪影響を与えます。腎臓は血液の中から不要な老廃物や有害物質を濾過し、尿にして体外へ排出する働きをしていますが、 動脈硬化が進み血液の流れが悪くなると、「腎硬化症」になり腎臓の働きが低下してきます。 日本や海外の調査でも、血圧が高くなるほど、これらの発症リスクが上がることがわかっています。 高血圧は他にも「心不全」「大動脈瘤」 「慢性腎臓病」(CKD)などの原因になったり、 最近では「認知症」のリスクを高めることもわかってきています。


●本態性高血圧と二次性高血圧

高血圧症の約3割が遺伝因子で、残り7割が環境因子が関与しており「本態性高血圧」「二次性高血圧」に分けられます。 二次性高血圧は、原因のはっきりした高血圧で、いくつかの病気の総称です。

◆本態性高血圧

本態性高血圧とは、原因をはっきり特定できない高血圧のことで、高血圧症の大部分はこの本態性高血圧です。 一般に"高血圧"という場合、多くはこの本態性高血圧のことを指します。 日本の場合、高血圧症患者の90%を占めるといわれています。 高血圧をきたす原因となる病気もないのに、中年以降は血圧が上昇してくるものです。 本態性高血圧は生活習慣の影響が強いので、「生活習慣病」の1つとして位置づけられています。 また、遺伝的な要因も強く、両親または片親が高血圧というケースがほとんどです。 とくに食塩をたくさん摂る地域で発症率が高いことが知られています。 本態性高血圧は、原因を特定できないため、根本的な治療は難しいのですが、血圧をコントロールすることは可能です。

◆二次性高血圧

二次性高血圧は、何らかの病気など、特定の原因によって生じる高血圧のことです。 二次性高血圧には、ホルモンの異常で起こる「内分泌性高血圧」、腎臓の動脈が細くなる「腎血管性高血圧」、 脳や中枢神経の異常で起こる「神経性高血圧」などがありますが、圧倒的に多いのは、腎臓病が原因で起こる 「腎性高血圧(腎実質性高血圧)」です。 腎性高血圧には、短期間で血圧が急に高くなり、特に最小血圧が目立って上昇するという特徴があります。 腎性高血圧を招く腎臓病には、「腎炎(糸球体腎炎)・腎盂腎炎・腎結核・腎結石・ 糖尿病性腎症」などがありますが、最も多いのは腎炎です。 二次性高血圧は、その原因に適切に対処することで、高血圧の解消が期待できます。

【関連項目】:『二次性高血圧』


高血圧の環境要因と遺伝的体質

高血圧の大半を占める本態性高血圧の発症には、環境要因と、高血圧になりやすいもともとの遺伝的体質があります。 環境要因としては 過食による肥満塩分の摂りすぎアルコール喫煙ストレス食生活の乱れ運動不足などがあります。 また、同じように食塩を摂っていても、高血圧になる人とならない人がいます。 これは、高血圧になりやすい遺伝的な体質が関係するためだと考えられ、 両親またはどちらか一方が高血圧の場合、その子供も高血圧になる傾向があります。


●生活習慣

▼塩分の摂り過ぎ
塩分の摂り過ぎに注意することが肝要です。 食事から摂った塩分は、ナトリウムとして血液中に入り、余分なナトリウムは尿とともに排泄されます。 しかし、”塩分の摂り過ぎ”などで血液中のナトリウム濃度が高まると、濃度を一定に保つために血管内に水分が引き込まれます。 同時にのどが渇いて水分を多く摂るようになります。 その結果、血液量が増加し、血圧が上がります。
また、ナトリウムには交感神経を興奮させて血圧を上げる作用もあります。 日本高血圧学会が定めた「高血圧治療ガイドライン2004」によると、1日の塩分摂取量は高血圧患者が6g未満になっています。 血圧が正常な人でも1日10g未満が目標です。 ところが、日本人の平均的な塩分摂取量は1日11~12gと多いのです。 食塩による血圧上昇の程度 (⇒食塩感受性)には個人差があるとはいえ、 塩分摂取は控えめにした方がいいでしょう。

▼肥満
肥満を防ぎ適性体重を維持することも大切です。特に内臓脂肪型肥満は要注意です。 糖尿病など生活習慣病の対策として、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予防が指摘されています。 肥満は高血圧の要因になるだけでなく、生活習慣病の引き金にもなるので、体重管理に取り組む必要があります。
【関連項目】:『肥満と高血圧』

▼その他
飲酒、喫煙、運動不足、過度なストレスに加えて、冬場は寒さ対策にも気をつけましょう。 居間と廊下やトイレ、お風呂場との温度差を極力なくすとか、熱いお湯や長湯を避けるなどの注意が必要です。
【関連項目】:『高血圧とアルコール』 / 『高血圧とタバコ』

●遺伝的体質

同じように食塩を摂っていても、高血圧になる人とならない人がいます。 これは、高血圧になりやすい遺伝的な体質が関係するためだと考えられ、 両親またはどちらか一方が高血圧の場合、その子供も高血圧になる傾向があります。 現在、高血圧に関する直接関係する遺伝子が、いくつか見つかっていますが、1つ1つの遺伝子の影響は、 あまり大きくないとされています。そのため、大部分の高血圧は、遺伝的な体質に環境要因が加わることで、発症すると考えられています。 例えば、世界32ヶ国の52集団で、高血圧の危険因子と血圧の関係を調べた研究では、 食塩の平均摂取量の少ない地域に住む人々は、加齢に伴う血圧の上がり方が非常に緩やかであることがわかっています。


●加齢・性別・動脈硬化

また、年齢や性別も高血圧に関係しています。高齢になるほど高血圧の人は増えてきますし、男性は女性に比べて、 高血圧になりやすいことがわかっています。厚生労働省の調査でも30~40歳代の高血圧の患者さんの割合は、 男性が女性を大きく上回っています。この年代の女性の血圧が比較的低いのは、女性ホルモンなどの影響だと考えられています。 しかし、閉経後は、男性と同じように高くなってくるので、油断はできません。

血管壁が弾力を失い、厚くもろくなるのが「動脈硬化」です。 動脈硬化が進むと、血管の内腔が狭くなります。すると、血液が流れにくくなって、末梢血管抵抗が高まり、血圧ががってしまいます。 動脈硬化は「血管の老化現象」とも言われ、年齢が上がるにつれ進行します。 一般に、血圧は加齢とともに徐々に高くなっていきますが、これは動脈硬化の進行と密接な関係があります。 また、高齢になると、動脈硬化が進み、太い血管の弾力性が低下しがちです。その影響で、高齢者の高血圧では、 収縮期血圧は高く、拡張期血圧は低くなり、収縮期血圧と拡張期血圧の差である 「脈圧」が大きくなる傾向があります。 男性の方が女性よりも10年早く高血圧を発症するというデータがあります。


●自律神経とホルモン

自律神経は「交感神経」「副交感神経」から成り、体のさまざまな臓器の働きを司っています。 何らかの理由で、交感神経が興奮すると、心臓の働きが活発になって心拍出量が増え、 血管が収縮して、末梢神経抵抗も増加するため、血圧が上がります。 また、交感神経の興奮によって血圧を上げるいくつかのホルモン(昇圧ホルモン)の分泌が促進されます。 代表的なのは腎臓から分泌される「レニン」によって産生が促される「アンジオテンシンⅡ」というホルモンです。 アンジオテンシンⅡには、血管を収縮させる作用があります。体内に「ナトリウム」を溜め込んで、 体内の水分量を増やす作用もあるため、血液量が多くなって心拍出量も増え、血圧を上昇させるのです。


●生活習慣の改善が重要

”遺伝的な体質があれば必ず高血圧を発症する”というわけではありません。 環境要因に注意することで、予防は十分に可能です。 加齢や性別は、避けようがありませんが、食塩の摂りすぎや肥満などの環境要因については、 生活習慣を改善することによって、取り除くことができます。


高血圧症の診断 診察室血圧 家庭血圧
  上の血圧 下の血圧 上の血圧 下の血圧
正常血圧 120未満 80未満 115未満 75未満
正常高値血圧 130未満 80未満 125未満 75未満
高値血圧 140未満 85未満 125未満 75未満
Ⅰ度高血圧 160未満 100未満 145未満 90未満
Ⅱ度高血圧 180未満 110未満 160未満 100未満
Ⅲ度高血圧 180以上 110以上 160以上 100以上
(孤立性)収縮期高血圧 140以上 90未満 135以上 85未満


■高血圧の治療と改善

高血圧と診断された場合は、診察室血圧で上が120mmHg未満/下が80mmHg未満を目指して治療に取り組みます。 糖尿病や、たんぱく尿を伴う慢性腎臓病がある場合は、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが高まるので、より厳格な目標値が設定されています。 一方、75歳以上の人は、血圧を下げ過ぎると臓器に障害が出る場合があるので、上の血圧が150mmHg未満/下の血圧が90mmHg未満を目標にします。 家庭血圧は、それぞれ5mmHgを引いた値が治療の目標になります。

【関連項目】:『高血圧の治療と改善』